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Nochnoy dozor ナイト・ウォッチ

ロシア映画 (2004)

「世界には、普通の人間以外に、超能力をもつ『異種』が存在する」 というのが映画及びその同名原作の設定。よく比肩される『マトリックス』は、未来のコンピュータによって作り出された仮想現実と、未来の人類の抵抗軍との戦いを描いていて、発想は遥かに「革新的」。むしろ、『ナイト・ウォッチ』における光と闇の2勢力の戦いは、『X-MEN』のプロフェッサーXとマグニートーとの戦いに近いのかもしれない。ただし、『ナイト・ウォッチ』の光と闇の指導者ゲッサーとザウロンがともに少なくとも千歳を超える超長寿命なのに対し、部下の「異種」の超能力は、『X-MEN』のようなスーパー・パワーではなく、悪く言えば「バンパイヤ」や「魔女」並みとレベルが低いのが特徴。そのため、戦闘シーンは非常に血生臭い。

『ナイト・ウォッチ』の大まかな構成は、①主人公アントンが「出奔した妻」を取り戻すため魔女に呪いをかけてもらう〔そのためには流産させる必要がある。胎児の本当の父親はアントンなのだが、魔女は、胎児の父親は「出奔相手の男性」だと嘘をつく〕。②この違法行為を「夜の番人」たちが食いとめた時、アントンも異種だと分かる。③12年後、アントンは「夜の番人」として現場に出ている。吸血鬼が血を飲もうと呼び寄せる犠牲者を救うのが与えられた任務だ。その時、女吸血鬼がターゲットにしたのは12歳のイゴール。①で殺されかけたアントンの息子だ〔実は、光と闇の休戦の際、千年後に出現して世界を闇に沈めると予言された「偉大な異種」でもある〕。④アントンは、イゴールを助けるのに成功するが、その際に重傷を負う。「夜の番人」の指導者ゲッサーは、治療の際、アントンが途中で遭った女性スヴェトラーナが誰かに呪われていることを発見する〔実は、スヴェトラーナも「異種」で、怒りが呪いとなって彼女から発散していた〕。⑤「昼の番人」の指導者ザウロンは、女吸血鬼にイゴールを捕まえるように指示する。⑥アントンは一命を取りとめると、強力な助っ人オリガと共に、イゴールの保護に向かう〔この時、イゴールのアパートで、アントンは彼が「流産させようとした子供」だと知る→自分の息子だと分かるのはもう少し後〕。⑦スヴェトラーナの呪いがモスクワ中に拡大し、ゲッサーはアントンとオリガを処理に向かわせ、イゴールの保護は「虎と熊」に任せる。⑧スヴェトラーナの呪いは解決するが、イゴールが再び女吸血鬼に捕らえられる。⑨イゴールを助けに駆けつけたアントンの前にザウロンが現われ、「アントンがイゴールに刃を向ける」ような事態をワザと作り出す。そして、イゴールに①の話を伝え、イゴールを父から離反させて闇の側の「異種」にさせる。こうして見ると、イゴールは『ナイト・ウォッチ』における最重要の存在と言える。一方のスヴェトラーナは、話の本筋とは無関係に見えるが、次作の『デイ・ウォッチ』で、光の側の「偉大な異種」になるキャラクターなので、登場場面が長いのであろう。あらすじでは、スヴェトラーナに関する部分はすべて削除する。DVDはディレクターズ・カット版を使用したが、わずか8分長いだけなので、劇場公開版とどこが違うのかよく分からない。この映画に対する「文字化けのない」ロシア語字幕はネット上に存在しないので、訳には英語字幕を使用した。また、「異種〔Others〕」「夜の番人〔Night Watch〕」のような特殊な言い回しは、既往の日本語字幕を踏襲した〔原作の日本語訳では、「異人」「ナイト・パトロール隊」〕

ここで、原作との違いについても指摘しておこう。原作は全く異なる3つのエピソードから構成されているが、映画は、その中の「エピソード1: 己の運命」のみを土台としている。わざわざ「土台」という言葉を使ったのは、原作と映画が余りにも違い過ぎているため。映画は、アントンから妻との復縁を依頼された闇の魔女が、胎児イゴールを流産させようとするところから始まる。そして、12歳になったイゴールはその事実を知り、「偉大な異種」になる運命の持ち主として闇の側についた。しかし、原作では、「12年前のアントン」の話など一切ない。イゴールは登場するが、アントンの子供でも何でもない。そして、「偉大な異種」でもないし、闇の側にもつかず中立を保つ。イゴールが吸血鬼に呼ばれるのは同じだが、助けに行ったアントンが瀕死の重傷を負うことはない。スヴェトラーナの呪いをアントンが解くところは同じだが、呪いの渦によりモスクワに異変が起きるもない。すべては、地味な原作を視覚的に盛り上げるための脚色だ。細かな設定も異なる。光と闇の間の条約が締結されたのは千年前でなく、わずか半世紀前。ゲッサー(原作ではボリス)とザウロンは、そんなに偉いわけでなく、ナイト・パトロール隊とデイ・パトロール隊のロシア支部長に過ぎない。だから、映画の冒頭にあった「中世の戦闘」を、2人が指揮していたこともあり得ない。

イゴール役のドミトリー・マルティノフ(Dmitriy Martynov)は、1991年11月21日生まれなので、撮影時12歳。映画の設定と同じだ。この作品が、彼にとっての映画初出演。センター分けのヘアスタイルは、「異種」の少年という役柄にぴったりだ。2年後の『デイ・ウォッチ』にもイゴール役で出演しているが、闇の側の「偉大な異種」だというのに、出演場面は『ナイト・ウォッチ』より少ない。


あらすじ

映画の冒頭、10世紀頃の騎士の鎧を着た2つの軍隊が石橋の上で戦闘をくり広げるシーンが入る。1000年前に行われた光と闇の戦争だ。戦闘は膠着状態に陥り、指導者ゲッサーとザウロンはやむなく休戦協定を結ぶ。合意なしに善や悪を行わず、違反がないかを互いに監視するものだ。光の側はナイト・ウォッチ(夜の番人)、闇の側はデイ・ウォッチ(昼の番人)として。そして、場面はいきなり1992年のモスクワへ。映画の主人公アントンが、古びたアパートのベルを押し、「やあ、広告を見て来たんだ」と声をかける。アントンが室内に入ると画面は真っ暗になる。「英語字幕」設定だと「Moscow, 1992」と表示されるが、「日本語字幕」だと何も表示されない。DC版だけのミスか? アントンが窓から下を覗くと、そこには黄色く塗られた小型の有蓋トラックが停まっている〔夜の番人の専用車両〕。アパートの太った老女は、何もかもお見通し。アントンが1990年に結婚し、2日前、その妻がいきなり荷物をまとめて出て行き、大金持ちの「プリンス」の元に走った。妻は簡単に取り戻せるが、そのためには妊娠している胎児〔アントンの子ではないと嘘をつく〕を流産させる必要がある。その罪を背負うかと問い質す。妻を取り戻したい一心のアントンはOKする〔1990年のロシアの中絶数は年間410万とされる。現在でも国別比較で断トツの1位。だから安易にOKした? それとも、広告につられて来たけれど、眉唾だと思っていた?〕。老女はアントンの指から血を取り、薬剤を調整し、アントンに飲ませようとする(1枚目の写真、矢印は魔法の薬の入った小コップ)。アントンは半分冗談だと思って飲む。ところが、老女は闇の魔女で、アントンが飲んだ瞬間、愛人とキスをしていた妻は、体を離すと「一緒にいられない」と言い出す。次は胎児の番。魔女が自分の両手に呪いの言葉を吐きかけると、妻は苦しみ悶える。魔女は「異界」に入り、薄暗くなって蚊が飛び始める〔異界のシーンの安価な表現法~原作者は「指輪をはめた時のフロドが見る歪んだ世界」を期待していたとか〕。そこに、先ほど下にいた夜の番人3人が現れる。魔女が両手を合わせると呪いが完結し流産するので、男性2人で魔女の両手を押え、虎に変身できる女性がキッチンのフライパンを取って両手の間に挟みこむ(2枚目の写真、矢印はフライパン)。これで一件落着。これは闇の側の協定違反なので、魔女の供述調書を取る。罪状は、「謀略と計画的暗殺未遂」。その光景を見ていたアントンが、「あんたら、何なんだ?」と言ったことで、3人は振り返る。「俺たちが見えるのか?」(3枚目の写真)。「異界は人間には見えない」という設定なので、アントンが異種だと初めて分かる。
  
  
  

そして、12年後。プールでイゴールが泳いでいると、水中にもかかわらず「おいで」という声が聞こえ、鼻血が出る(1枚目の写真、矢印は鼻血)。イゴールは鼻血に気付いて水から顔を出す。さらに、「おいで」の声が聞こえる。イゴールは、鼻血を苦にして見上げながら、プールの脇を歩いて出口に向かう。「おいで」の言葉には呪文のような強制力があり、逆らえない。アントンの携帯にゲッサーから出動命令の電話がかかってくる。「オレンジ色の地下鉄路線で奴らの『呼びかけ』が聞こえた」〔この時、アントンが部屋に貼ってある地下鉄マップに描く六芒星は、その後の映像から見て全く無意味〕。「犠牲者は血圧が高く鼻血を出しているだろう。犠牲者が『呼びかけ』を耳にしたら、何も考えられなくなる」。街を歩くイゴールが映される(2枚目の写真、鼻血が止まらない。背景の白い縞は横断歩道)。アントンは黒眼鏡をかけ〔『マトリックス』のネオそっくり、ただし、もっとヨレヨレ〕、懐中電灯を取り出して特殊な発光装置を装着する。吸血鬼の跡を追うには同レベルになることが必要らしくて、冷蔵庫の中に保存してある血のビンを取り出すが中身は空。そこで、アントンは、顔見知りの闇の側の隣人に頼んで豚の血を飲ませてもらう。その間に外はもう暗くなっている。イゴールは文化公園〔Парк культуры〕駅に入って行く(3枚目の写真)。地下鉄1号線と5号環状線が交差する駅だ。
  
  
  

そして、その直後、アントンの乗った地下鉄は全ロシア博覧センター〔ВДНХ〕駅に着き、イゴールが乗車してくる〔これは、絶対に間違っている。文化公園駅は1・5号線、全ロシア博覧センター駅は6号線とモノレール。だから、イゴールがこの駅から乗車するためには、①5号線→6号線に乗り換え→一度 全ロシア博覧センター駅で降り、再度、同じ駅で乗る、②5号線→9号線に乗り換え→モノレールに乗り換え→全ロシア博覧センター駅で降り→6号線の駅に行く、という2通りしかない/結論、イゴールの乗った文化公園駅は見栄えがいいのでロケに使っただけで、実際は全ロシア博覧センター駅から入った〕。アントンはすぐにイゴールに気付き(1枚目の写真)、イゴールもその視線を感じ、何となく居心地が悪い(2枚目の写真)。しかも、この怪しい風体の男は、すぐに近くまで寄ってくると、イゴールの真後ろに立つ。そして、顔を近づけ手を伸ばす(3枚目の写真)。イゴールが振り向こうとすると、さっと手を引っ込める。まさに変態男。ドアの横に立っていた男に注意されると、「耳を食いちぎってやろうか」と脅す。そして再びイゴールに手を伸ばす。その時、電車が次の駅に着き、大勢の乗客がドアに押しかける。イゴールは、それに紛れてアントンから逃げる。アントンは、混雑した車内をかき分けてイゴールを追うが、途中で「呪いの渦」を持った女性に気付く〔冒頭解説で述べたスヴェトラーナ〕。しかし、イゴールが次のスヴィブロヴォ〔Свиблово〕駅で降りたので、すぐに後を追う。
  
  
  

駅構内の階段を上がるイゴール(1枚目の写真、背景には駅名「СВИБЛОВО」が見える)。その間も、「おいで」の声は続く。地下鉄の出口でも、イゴールとアントンは至近距離(2枚面の写真、矢印はアントン、階段の途中なので向きが逆)。アントンは階段の上にいた警官によって不審人物として呼び止められ、職務質問を受ける。「飲んでるな?」と訊かれ、「血だけ」と答える。警官は完全に酔っていると思い込むが、アントンが地下鉄の階段に向かって血を吐くと、気持ち悪がって追い払う〔このシーン、異種の行動とかけ離れており、原作者はひどく気に入らなかったとか〕。そうこうしている間に、イゴールはどんどん先に進み、アントンからは見えなくなってしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

イゴールは、公園を抜けた先にある建物の中に入って行く(1枚目の写真)。中は、がらんどうの大きな部屋。誰もいない。どうしたらいいか分からないイゴールは、一番奥の鏡の前までいく。鏡に映った自分の姿の背後に、忽然と男が姿を現す(2枚目の写真)。イゴールは何事かと後ろを振り向き、本当に男がいるのを見て悲鳴を上げる。男も、恐怖を煽るように雄叫びを上げる(3枚目の写真)。そして、突然、男の姿は消える〔部屋の中は異界なので、自由に姿を消せる〕
  
  
  

一方、イゴールを見失ったアントンは、黄色の有蓋トラックの仲間に電話をかけて救いを求める。トラックはイゴールの救出に出動するが、その前に、アントンはイゴールが入って行った建物の前に来ていた。しかし、アントンには入口が見えないのか、建物の前でウロウロするばかり。中では、イゴールが先ほどの男に口を押えられ、隣に女吸血鬼が寄り添っている(1枚目の写真)。男は、女に「さあ、飲め」とけしかける。女がイゴールの首に噛み付こうとした時、アントンがドアを蹴飛ばす(2枚目の写真)。ドアは簡単に開き、アントンは中に入る。イゴールは鏡の前に1人でいるが、姿勢が不自然だ。アントンが、女吸血鬼に「夜の番人だ、異界から出ろ」と命じると、イゴールの口を押えていた女が姿を見せる(3枚目の写真)。
  
  
  

ただし、それは囮(おとり)だった。アントンが気配を感じて振り向くと、男が現れ、持っていたハサミでアントンの腹を刺す。さらに、同じハサミを、今度はアントンの右の手の平の真ん中にも突き刺す。痛さに苦しむアントンの背後で、女吸血鬼から逃げ出したイゴールが、逃げる隙を伺う(1枚目の写真、矢印はイゴール、左が闇の男、その右がアントン)。アントンは、「逃げろ、坊主」と声をかけ、イゴールは逃げ出す。アントンは体を一回転させて男の顔を蹴り、男の歯が(吸血鬼の牙も)全部折れる。怒った女吸血鬼が今度は壷でアントンの頭を殴る。その隙にイゴールは無事逃げ出し、公園を駅に向かって走る(2枚目の写真)。男は、アントンに馬乗りになり、ハサミで頭を串刺しにしようとするが、殺してしまえば協定違反の重罪になるので女吸血鬼は必死にとめる。アントンは手の近くに落ちていた懐中電灯をつかむと、闇を攻撃する光を放つ。光は女吸血鬼の顔の左側を焼く。その後は、男との一対一の戦闘になるが、アントンが殺されかかった時、間一髪でトラックが間に合い、ヘッドライトの光を手に持った鏡の破片で反射させて男に浴びせ(3枚目の写真)、男を粉々にする〔2人は、吸血という違法行為をしている最中に介入され、抵抗して「番人」を殺そうとしたので、死んでもアントンは罪に問われない。しかし、顔を焼かれた女吸血鬼から強い恨みを買う〕
  
  
  

重体のアントンは、トラックに乗せられ、ゲッサーの元に連れていかれ、何とか一命をとりとめる。アントンは、地下鉄で見た「呪いの渦の女性」のことをゲッサーに話す。ゲッサーが調査部門に「呪いの渦」の兆候について問い合わせると、「モスクワ~アンタルヤ便、モスクワで墜落」という翌日の朝刊が見つかった〔アンタルヤ空港には私も行ったことがあるが、近くには、13世紀の巨大な城塞(延長6.5キロ)を残すアランヤ(1枚目の写真・左)や、世界で最も保存状態の良い古代ローマ劇場のあるアスペンドス遺跡(1枚目の写真・右)など観光資源が一杯。だから、モスクワからの直行便で出ている〕。このアンタルヤ行きの飛行機が、今夜、離陸直後に呪いの渦によって墜落することが予見され、ゲッサーはアントンが地下鉄で見た女性の捜査を命じる。一方、闇の指導者ザウロンは、殺された部下の犯人の捜査を命じる。部下の女性は、女吸血鬼に捜させようと、彼女が一番欲しがっている血を入れたビンを目の前にちらつかせ、もう一度、少年を呼び出して捕らえ、殺人犯をおびき出すよう命じる(2枚目の写真、矢印は血のビン)。何とか立てるようになったアントンは、再度イゴールが女吸血鬼に襲われることを心配し、少年のアパートに向かう(3枚目の写真)。ゲッサーはアントンが弱っているので、相棒に強力な女性オリガを付けてやる。
  
  
  

イゴールのアパートでは、母がイゴールの血圧を測っている。血圧計の表示は126、133、144、177…〔カメラは最後まで数値を追わないので、もっと上がっていたかもしれない〕と上昇していく。明らかに異常値だ。これが吸血鬼に感知された理由であろう。母は、「お薬、飲んだ?」と訊く。返事がないので、「降圧剤飲んだの?」と再度確認(1枚目の写真)。TVでは、モスクワでこれまで観測されたことのない異常な強風が吹き始めていると警告している。母は、いつものベビーシッターに電話し、「ここで一晩過してもらえない。イゴールが心配なの。また病気になって」(2枚目の写真)「私には仕事があるから」と頼む。それを聞いたイゴールは、近くに寄ってきて「ママ」と声をかける(3枚目の写真)。相手も、いきなり夜間なので断る。
  
  
  

イゴールは、電話が終わって席を立った母に、「吸血鬼ってホントにいるの?」と尋ねる。母は、テキトーに答える。「いるわよ。親の命を吸い取る小さな男の子のことよ」。「マジメな話だよ。ホントにいるんだ。見たんだよ」。母は、イゴールの話など無視して他にも電話をかけるが、相手は不在。そこで、薬のビンを渡し、「ほら、これがお薬よ。今すぐ飲みなさい」と命じる。家を出ようとする母に、イゴールは再度、「ホントにいるよ。見たんだ」と声をかける。「ホントって、誰が?」。「吸血鬼だよ」。「いい加減なこと言わないの。もう大きいんだから、1人でも大丈夫よ」。母は部屋を出て行ってしまう。イゴールは仕方なくTVの前に座って薬を飲む。母がアパートから出て迎えに来たバンに乗って出かけると、バンの陰にいた女吸血鬼が映る。女吸血鬼は、イゴールの「何らかの痕跡」を辿ってアパートまで辿り着いたのだ。イゴールは木の枝をナイフで削って吸血鬼用の武器を作っている。その時、玄関で音がしたので振り返る(1枚目の写真)。そして、恐る恐る玄関の方に近づいていく(2枚目の写真)。そして、玄関ドアの覗き穴から見ると(3枚目の写真、矢印)、いきなり女吸血鬼が脅すように顔を出し、イゴールは顔をのけぞらせ、恐怖の叫び声を上げる。
  
  
  

その叫び声は、アパートの下まで来ていたアントンとオリガにも聞こえる。2人は、エレベーターがロックされていたので7階まで駆け上がる。叫び声は断続的に続く。アントンより感覚の優れたオリガは、中に女吸血鬼がいることに気付く。イゴールの部屋の中は異界になっている。2人は潜入する。途中では、イゴールが飛び交う蚊に戸惑っている(1枚目の写真)。そして、アントンにとって意外な言葉。イゴール:「見える」。異界で姿が見えないはずなので、アントンは「本当かな?」と疑う。オリガ:「あの子、異種に違いない」。「彼、どのくらい異界にいられる?」。「短いわ。訓練してないから」。「あと、どのくらい?」。「10秒で異界に取り込まれる」。イゴールは、「近づくな!」と警告する(2枚目の写真、顔が白いのは異界のせい)。オルガ:「8秒」。相手が女吸血鬼だと勘違いしているイゴールは木の棒をふるう。「7秒」。「目を閉じるな」。「6秒」。「手を寄こせ」。「5秒」。「寄こすんだ」。「4秒」。イゴール:「怖くなんかないぞ」。アントンはイゴールの手から木の棒を奪う(3枚目の写真、矢印)。「ゼロ」。
  
  
  

イゴールの瞳が真っ赤になり、そこから赤いモヤのようなものが出てくる(1枚目の写真)。そして、イゴールはそのまま気を失って床に倒れる。アントンは、「目を開けろ」と頬を叩くが反応はない。「触らないで。その子は、もう取り込まれたの」。アントンはイゴールのシャツを引き裂くように開き、ボタンがちぎれて飛ぶ(2枚目の写真、胸にあるのは飛んでいくボタン)。オリガは「ここに居過ぎると、私達も異界に吸収されるわよ」と警告するが、アントンは何とかイゴールの目を覚まそうと何度も胸を押す。しかし、効果はない(3枚目の写真、イゴールの顔は灰色)。
  
  
  

「俺も異界に吸収されかけている。だが、イゴールを助けないと」〔アントンはいつ名前を知ったのか? 映画の中では、母が「イゴールが心配なの」と言ったのが、名前が出てくる最初〕。「異界の気を逸らすの。血をやって」。アントンは、灰色になってしまった自分の左手に何度もナイフを突き刺し、血がほとばしる。すると、異界は消え、アントンは力尽きて床に仰向けに横たわる(1枚目の写真)。目を覚ましたイゴールが、「すごく暗かった」と話しかける(2枚目の写真)。「なぜ、あんなに暗いの? あなたが作ったの?」。「違う。あれは異界と呼ばれてる。君は異種なんだ」(3枚目の写真)。「異種って? 僕、普通の人間じゃないの?」。「もう、そうじゃない」。「それって、いいこと、悪いこと?」。「ただ、違うんだ」。
  
  
  

元気を取り戻したアントンは、居間のTVで異常気象のニュースを観ている。そこに、イゴールとオリガがやって来る。イゴールは、さっきまともに教えてもらえなかったので、オリガに「『異種』って何なの?」と尋ねながら、アントンの横に座る(1枚目の写真、オリガは先ほど飛んだボタンをシャツにつけている)。ここからの重要な会話は、ディレクターズ・カット版と公開版とでは台詞がかなり違っている〔ただし、英語字幕〕。ロシア語字幕がないので、どちらが正しいのかは分からない。ここで3者を併記紹介しよう。DC版の英語字幕の訳は黒字、DC版の日本語字幕は茶色字、公開版の英語字幕の訳は青字で示す(内容がかなり違っている場合には太字)。
 ・オリガ:「異種は、他の人たちとは違っていて、並外れたパワーがあるの」「最初、自覚はないわ」「ただ、そう生まれるだけ。自分が別のものだなんて気付かない
 ・イゴール:「なぜ?」
 ・オリガ:「並外れた試練を乗り越えなくてはならないからよ。分かる?」「特別な試練に直面して気づく。分かる?」「そうね、尋常じゃない力を発揮した時かな」(2枚目の写真)
 ・オリガ:「そして、全力にそれに立ち向かうの」「突然、力が目覚めて…」「車に閉じ込められた人を救助するとか
 ・オリガ:「一旦、異種になると」「…異種になる」「吸血鬼の攻撃から身を守るとか
 ・オリガ:「その後は人生が一変する」「人生が一変するの」「その後は人生が一変する
 ・オリガ:「その時、仲間がいて、何が起きたかをちゃんと説明し、備わった力の使い方を教えないと…」「その時そばに仲間がいて何が起きたか説明し、生き方を教えないと…」「その時、仲間がいて、何が起きたかをちゃんと説明し、備わった力の使い方を教えないと、死んでしまう
オリガの台詞の最後の「…」は、アントンが会話を邪魔しないように席を立ち、もう1台のTVをつけてニュースの続きを見るので、ニュースの音声で聞こえない。だから、公開版の「死んでしまう」の部分がない〔重要な変更〕。その後、公開版では次の2つの会話がプラスされる。「持っている力は様々なの。すぐにあなたにも分かる」「そして、光か闇かを選ばないといけない」。こうして比較すると、DC版では前半「異種とは何か」について話すのに対し、DC日本語字幕公開版では「異種に気付いた当初」について話している〔なぜ変えたのだろうか?〕。公開版の方が長いのも異常だ〔普通はDC版の方が長い〕。この先は両版ともほぼ同じなので、DC版のみ示す。イゴール:「あなたはどっちの異種なの? 光、それとも、闇?」。オリガ:「私たち? 光よ」。「僕はどっちなの?」。アントン:「自分で決めるんだ」。イゴール:「光と闇の異種は、どう違うの?」。オリガ:「どの異種も、自らの内なる力で生きているの。闇は闇から、光は光から。食事と同じよ。分かる?」。この後、オリガの「食事と同じよ」を受けて、イゴールが、「普通の食事は食べないの?」と訊き、アントンが「勧めてくれりゃ食べるさ」と答えたので、イゴールはペルメニ〔餃子の一種〕を解凍しにキッチンに行く(3枚目の写真)。
  
  
  

アントンは一緒にキッチンに向かう時、イゴールの母の机の上に置いてあった写真立てに目を留める。そこにイゴールと一緒に写っていたのは、かつての妻、呪いをかけようとした妻だった。イゴールは、自分が流産させようとした胎児なのか? 映画の冒頭にあった魔女とのやり取りが頭を過(よ)ぎる。アントンは冷凍ペルメニの袋を破っているイゴールのところに行くと、写真立てを見せて(1枚目の写真、矢印はイゴール)、「これ誰だ?」と訊く。「ママ」。しばらく言葉が出ない。「君、幾つ?」。「12」(2枚目の写真)。イゴールは、流産させようとした胎児だった。イゴールは衝撃を受ける。しかし、この時点では、魔女が言った「赤ん坊はお前さんのじゃない」という言葉が生きているはずだ。この言葉が否定されるのは、もう少し先のシーンで、アントンが、組織のデータにアクセスした時、偶然自分のファイルを見て、そこに「子供:息子 〔Дети: сын〕」(3枚目の写真、矢印)を見た時だろう〔DC版しか観ていないので、公開版ではどうなっているのか不明〕。イゴールは、「彼女、絶対 戻って来ない?」と尋ねる。アントンは、心ここにあらずなので、質問がよく分からない。「誰?」。「吸血鬼だよ」。「来ない。俺たちがいれば」。
  
  
  

その時、非情にもゲッサーから命令が入り、アントンとオリガは「渦の女」に向かい、イゴールは、12年前に魔女の逮捕に来た「虎と熊」の2人に任されることになる。それを知ったイゴールは唖然とする(1枚目の写真)。イゴールが不安がるので、アントンは、「すぐ戻る」と声をかける(2枚目の写真)。「約束する?」。「約束する」。そう言うと、アントンは手を差し出す。イゴールは、「分かった。信じるよ」と言って握手し、ニッコリする(3枚目の写真)。
  
  
  

女吸血鬼はいなくなった訳ではなく屋上に潜んでいた。アントンたちの代わりに警護に来た「虎と熊」の2人がいるのに、女吸血鬼は、「おいで」とイゴールに囁きかける(1枚目の写真)。そのことに2人はなぜか気付かない。イゴールは、2人に「もう帰る時間だよ」と声をかける。「虎」は、なぜそんなことを言い出したか不審にも思わず、ただ、「追い出す気?」と咎めただけ(2枚目の写真)。「そうじゃないけど、もうすぐママが戻るんだ。あなたたちのこと、どう説明したら?」。「熊」は、「電気屋だと言え」と話すと、食卓の上の電球を外して手に持ち、異種としてのパワーで電球を光らせてみせる。イゴールは、「なぜ、熊って呼ばれてるの?」と尋ねる。「虎」は、変身が彼の特技で、私の特技は虎になることだと打ち明ける。イゴール:「見せてよ」。熊:「何をだ?」。「どんな風に熊になるのか」(3枚目の写真)。「また今度な」。「何だ、恥ずかしいんだ」。「恥ずかしい? 何が?」。「変身したら、服が破れるから、裸を見られちゃうよね」。「恥ずかしくないぞ」。「じゃあ変身してよ。見ないって約束する」。イゴールは、そう言って食堂を離れると、自分の部屋に行き、ドアに鍵をかける。
  
  
  

ベランダに出て、屋上を見上げると(1枚目の写真)、女吸血鬼が上がって来いと手招いている。前回、公園に誘導されて行った時は、建物に入った段階で相手が女吸血鬼だと認識できた。しかし、今回は、以前見た女吸血鬼を目にしても、そのまま屋上に行こうとする。余程強い魔力で吸い寄せられているのか?〔女吸血鬼はレベルの低い闇の異種、イゴールは1000年に一度しか現れない強力な異種。本人も異種だと認識しているのに、こんなに簡単に騙されるのには違和感を覚える。熊と虎が気付かないのも腑に落ちない〕 ベランダから非常梯子までは距離がある。イゴールは思い切って飛び移るが、梯子に足が届かず、手すりにぶら下がって落ちそうになる(2枚目の写真)。それでも何とか這い上がった時、物音に気付いた「虎」がベランダに出てきて、イゴールに「戻って!」と叫ぶ。効果がないので、非常梯子を登って後を追う。その声でイゴールは誘導から一瞬醒めて「虎」を見る(3枚目の写真、なぜ涙が?)。しかし、女吸血鬼の吸引力の方が強く、イゴールは屋上まで上がってしまう。
  
  
  

一旦イゴールを手に入れると、女吸血鬼はすぐに本性を現す。そして、屋上まで来た「虎」に対し、イゴールの血を吸うと脅し、自分の恋人を破壊した男〔それがアントンだとは知らない〕を呼ぶように命じる(1枚目の写真、イゴールの顔になぜ傷がついたのか?)。アントンは「渦」を鎮めると、直ちに息子の救出に駆けつける。「来たぞ、その子を放せ」。女吸血鬼は、自分の恋人が殺されたことだけでなく、アントンが闇の番人のくせに、自分が吸血鬼にさせられたことを防げなかったことを責める〔恋人=男の吸血鬼に血を吸われたことが原因〕。そして、「なぜ、この子の血を吸わせない?」と反論する。アントンは、「俺が許さないからだ」と、腰ベルトに付けていたドライバーを手に取る(2枚目の写真)。そして、「イゴール、逃げろ!」と叫んで襲いかかる。イゴールは女吸血鬼がひるんだ隙に逃げ出すが、吸血鬼はすぐに後を追う。その事態に介在したのは、闇の指導者ザウロンだった。アパートの屋上全体を異界にし、エレベーターを屋上まで突進させる(3枚目の写真、矢印はエレベーターの天井の上に乗ったイゴールと女吸血鬼)。この先の場面では、レベルの低い吸血鬼と「熊と虎」は登場しなくなる。
  
  
  

アントンは、横に落ちていた蛍光管〔いつ、どうして出現?〕で異界の闇を捜すが、イゴールは見つからない。代わりに待ち構えていたのはザウロン。彼は、脊椎を抜き出して剣に変える。千年前の光と闇の戦闘のイメージがくり返され、アントンはいつの間にか床にはいつくばり、脇に立ったザイロンが剣を振り上げる。イゴールは、さっきアントンが女吸血鬼に言われて手放した護符〔ザウロンから身を守る鎖〕を拾ってアントンを助けようとする(1枚目の写真)。イゴールが、「アントン」と叫びながら寄ってくるのを知ったザウロンは、剣を一旦アントンの首に当てると(2枚目の写真、矢印は剣)、振り上げる。アントンは、とっさにもう1本のドライバーをベルトから取ると、剣を振り下ろそうとするザウロンに襲いかかる。しかし、それはザウロンが何度も練習してきた「計略的な状況」で、ザウロンが体をかわすと、いつの間にか、「床に転がったイゴールをアントンがドライバーで刺し殺そうとする」状態に変わってしまう(3枚目の写真)。
  
  
  

イゴールは、自分に向けられた凶器としてのドライバーに驚く。そして、「護符を持ってきたのに」と鎖を見せ、「僕を殺したいの?」と訊く。アントンは必死で「違う」と否定するが、ザウロンは、「アリス、読め」と命じる。すると、ザウロンの腹心の部下が紙を読み上げる(1枚目の写真、矢印)。「夜の番人の逮捕記録。1992年8月19日。ゴロジェツキー氏は、スタロザチャツキー通10の住民シュルツ夫人を訪問。同氏はシュルツ夫人に黒魔術に関わる貢献を金銭で要求。夫人の事前警告に際し、同氏は妻イリーナ・ペトローヴァの胎児の殺害の全責任を取る旨に同意」〔イリーナ・ペトローヴァはイゴールの母〕。それを聞いたイゴールは、「じゃあ、ホントに僕を殺したかったんだ」と非難する(2枚目の写真)。アントンは、「そうだけど… それから、君に会って…」。イゴール:「殺したくなった?」。アントンは、息子を失うと思い「お願いだ、イゴール、奴らと行くな、奴らは闇だ」とすがるように頼む。しかし、ザウロンの脇に立ったイゴールは、「あんたは闇より悪い。嘘付きだ。善人のフリをしてるだけ」と見放す(3枚目の写真)。その言葉を聞いたザウロンは、「これを何世紀も待っていた。この少年は偉大になる運命にある。そして、君が闇を選ばせた。事は成った。もう変更はできん」とアントンに言い渡す。
  
  
  

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